◆ボーカル大きくしてください!
歌ってみたmixの依頼を受け、何時間も調整に調整を重ねてさあ納品。依頼者からの返事を待っていると「ボーカル大きくしてください!」と言われてしまった。
こんな経験ありますでしょうか?
ちゃんと調整したはずなのに…あれ?自分の耳おかしくなった?とか不安になってしまったり。どうしてこうなってしまったのでしょうか?
◆ボーカル大きい?小さい?
まず始めに、これを言っておきたいです。
あなたのmixした音源は、ちゃんとバランスとれています!自信を持ってください。
ですが、ボーカルを小さく見かけさせてしまうトラップに引っかかってしまったかもしれません。(悲しい)
今回はそのトラップをどうやって回避するか、一緒に考えたいと思います。
◆トラップその1・カクテルパーティー効果
カクテルパーティー効果とは、簡単に言うと、ガヤガヤうるさい場所でも、特定の聞きたい音だけ聞けるという現象です。
どうでしょう?動画の最初は聞き始めはボーカル小さいなと感じたと思います。でも、最後の方は、このぐらいのバランスでもいいかな?という気分になってきませんでしたか?笑
あらかじめ、注視する音を聞かせておくと、オケが大きくなってもそのまま聞けちゃったりするのです。
つまり、mix中、同じボーカルをずっと聞いてると、カラオケに多少埋もれてても、はっきり聞こえて来ちゃうのです。結果、埋もれ気味のボーカルになってしまう。
さて、こんな時は耳リセットしましょう! 耳リセットの方法は2つ。
1.寝る(≒時間を空ける)
寝ます!(。-ω-)zzz. . .
寝起きが一番耳が元気なので、この時に聞いて確認します。ここで注意なのが、途中で戻して、聞き直したりしない事です。通して聞きながら、気になったところはメモします。「0:57 ボーカル+1.0」「1:02 下ハモリ+0.5」とか。聞き始めに、ボーカルが小さいと思ったら、しっかりメモしておきます。
戻したりすると耳が慣れてしまって、「まいっか」みたいな気持ちになってきます。笑
そして、修正時も何度も聞かず、なるべく短時間でメモした通りに直します。
楽曲の聞き終わりにボーカルが丁度いいと思っても、それは慣れただけなので、メモした通りに直します。そして、すぐに作業をやめて、違うことします。(違うmixしてもいい。)
一時間後くらいにまた通して聞きます。こうして休み休み調整すると、耳リセットの状態から聞けるので、惑わされにくくなります。
(この為、mix仕上げ後必ず一日は空けて確認し直したいので、私は即日納品はしていません。)
2.参考音源を聞く
mixしてる以外の音源を聞きます。なるべくバランスの取れた音源が良いです。市販されている音源でも全然OKです。そうやって違う音を聞くことで耳がリセットできます。
ただし、リセット用の音源のバランスが極端に崩れてたりすると、余計混乱することも笑
例えるなら、目盛りのぐちゃぐちゃな物差しを基準にするようなものでしょうか。基準がずれてたら、それを参考にしてできるmixも、バランスがおかしくなってしまいます。
耳リセット用の音源は質の良いバランスの取れたものにしましょう! これ大事。
◆トラップその2・マスキング効果
マスキング効果とは、聞きたい音を妨害するような音があるせいで、聞きたい音が聞けなくなるという効果です。
どうでしょう?EQしたのはカラオケ音源の方です。(EQのアナライザの色は、水色がカラオケ音源、ピンクがボーカル音源です。)
わざと邪魔するEQをしました。ボーカルが聞こえにくくなったと思います。
(でも、カクテルパーティ効果でボーカルは聞こえる。)
ボーカルの居場所に他の楽器がでしゃばっていた場合、ボーカルが埋もれて聞こえにくくなります。
そして、楽器に負けないようにボーカルを大きくすると、今度はオケとのバランスが崩れます。という、「え~ん。どれに合わせたら良いの~。」みたいなどっちつかずなバランスに陥ります。
歌ってみたに使うカラオケ音源、特にマスタリング済みの音圧が突っ込まれた音源は、ボーカルの居場所になる周波数帯を他の楽器が占領していることが多く、ボーカルが埋もれ気味に聞こえてしまいます。
え~…どうしたらいいの?
カラオケ音源の方、ボーカルを邪魔している帯域をちょっと下げます。これがいわゆる、ボーカルの居場所を空けるというやつ。ですが、アレンジ段階からきちんと計算されて作られたカラオケ音源は、ボーカルの居場所が確保されているので、カットEQは必要ない場合もあります。なんでもかんでも居場所を空ければいいという事でもないようです。居場所を空け過ぎると、今度はボーカルが浮いて聞こえたりします。
ちょっとまって?カラオケをいじらないで、ボーカルを大きくしたらダメなの?
ボーカルを大きくしてももちろん良いですが、場合によっては音があふれて聞き苦しいことになる可能性があります。デジタル上の音の入れ物には限界があります。居場所の取り合いより、譲り合いの方が、余裕があって綺麗な音になると思います。
もうひとつ、低音による全体のマスキング、という事も考えられます。低音がぼわんぼわんしてるようなオケは、全体に締まりがなくが埋まりやすいです。低音部分をすっきり、くっきりさせる事で、全体が引き締まりかっこよくなります。
低音をいじるとき、これは楽曲の要(かなめ)を動かすということになるので、慎重に対処します。
なかなか難しいですが、うまく譲り合いできると良いですね。
◆トラップその3・他の作品もボーカルが大きい
さて、最後の仕上げにもう一つトラップがあります。それは、他の歌ってみた作品もほとんどが、ボーカルが大きいという事です。
例えば、ボーカル控えめでバランスをとったとします。ですが、同じ楽曲の他の作品がボーカル大きめで作っていたとしたら、並べて聴くと、「あれ?なんかしょぼい。」と感じてしまうのです。
歌ってみた界隈にいる人達は、常にそういう大きいボーカルを聞いているので、"そういう耳"になっているのだと思います。(私も初めは戸惑いました。)
これは良い悪いではなく、そういう文化なのだと思います。
ですので、歌ってみたを仕上げるときは、同じ楽曲・できれば有名どころの歌い手さんの曲を参考にして(だいたい誰か歌ってると思うので)、ボーカルのバランスを決めると良いかも知れません。そして、その参考にした曲と並べて聞いた時、見劣りしないな~と感じるくらいまで、ボーカル音量・また全体の音圧を調整したいですね。
◆おわり
全体のバランスを考えつつ、ボーカルもきちんと聞かせるように、あと、他の作品と比べても見劣りしない品質を…うわ~たいへんだな~…おわり。